最初に: 解約率は「どれだけ増えたか」より前に見るべき数字
解約率 は、一定期間でどれだけ顧客や売上が離れたかを見る指標です。
SaaS では新規契約数や売上成長に目が向きがちですが、入ってきた顧客がすぐ離れているなら、見た目ほど事業は積み上がっていません。
たとえば、毎月100社が新規で増えても、同じ月に20社が解約しているなら、純増は80社です。
しかも、その20社が大口顧客なら、契約社数は増えていても売上の伸びは弱く見えることがあります。
そのため SaaS では、新規獲得 と同じくらい 継続 を見る必要があります。
リテンション が 残っているか を見る考え方だとすると、解約率は 離れている割合 を見る指標です。
この記事では、2026年4月24日時点で Stripe の Subscription Analytics / churn rate 関連情報、Paddle の SaaS churn 解説、Maxio の logo churn 解説を確認しながら整理しています。
解約率とは何か
解約率 は、ある期間の開始時点でいた顧客や売上のうち、どれだけがその期間中に失われたかを見る数字です。
英語では churn rate と呼ばれます。
SaaS でよくある基本形は次のようなものです。
解約率 = 期間中に失った顧客数 ÷ 期間開始時点の顧客数
たとえば月初に200社いて、その月に10社解約したなら、月次の顧客解約率は5%です。
ただし、実務ではここで終わりません。
顧客数ベースで見るのか 売上ベースで見るのか で意味が変わるからです。
まず分けたい2つ: ロゴチャーンと売上チャーン
ロゴチャーン
ロゴチャーンは、何社離れたか を見る考え方です。
customer churn と呼ばれることもあります。
たとえば、100社のうち5社が解約したら、ロゴチャーンは5%です。
顧客社数そのものが減っていないかを見るには分かりやすい指標です。
ロゴチャーンが役立つのは、次のような場面です。
売上チャーン
売上チャーンは、どれだけの定期売上が失われたか を見る考え方です。
MRR churn や revenue churn として扱われます。
たとえば、100万円の月次売上のうち、解約やダウングレードで5万円分を失ったなら、売上チャーンは5%です。
こちらが重要になるのは、顧客ごとの単価差が大きい BtoB SaaS です。
1社解約でも小さな契約なら影響は限定的ですが、大口顧客1社の離脱はかなり重いことがあります。
なぜ両方見るのか
片方だけだと見誤るからです。
ロゴチャーンは低いのに危ない場合
大口顧客が数社離れただけなら、社数ベースでは低く見えることがあります。
でも売上ベースでは大きく落ちているかもしれません。
売上チャーンは低いのに安心できない場合
大口顧客が伸びて売上は保てていても、小口顧客が次々に離れていることがあります。
このとき、将来の広がりや市場への適合に問題が隠れている可能性があります。
つまり、SaaS では
- ロゴチャーン = 顧客の離脱の広がり
- 売上チャーン = 事業インパクトの大きさ
を見るイメージです。
月次と年次、どちらで見るのか
どちらでも見ますが、同じ定義で追い続けることが大切です。
月次で見る理由
月次は変化を早く見つけやすいです。
オンボーディング改善、価格変更、機能追加、障害、請求トラブルの影響を比較的早く拾えます。
年次で見る理由
BtoB SaaS では年契約も多く、月次だけだと実態を読みづらいことがあります。
更新月に解約が集中するなら、年次や更新コホートでも見たほうが実態に近づきます。
注意したいのは、月次3%を単純に 年36% の感覚で雑に扱わないことです。
契約形態、対象顧客、課金周期によって体感はかなり違います。
自主解約だけではない: involuntary churn
解約率というと、顧客がいらないと判断して去る ものだけを想像しがちです。
でも SaaS では、支払い失敗やカード期限切れで落ちる involuntary churn もあります。
この違いはかなり重要です。
voluntary churn
ユーザーや顧客が、自分で解約を選んだケースです。
価値不足、価格不満、利用定着しない、競合乗り換えなどが背景にあります。
involuntary churn
本人は続けるつもりでも、決済失敗や請求処理の問題で契約が切れるケースです。
Stripe の案内でも、サブスクリプション分析や churn の文脈では支払い失敗の扱いが重要になります。
この2つは打ち手が違います。
- voluntary churn: オンボーディング、価値設計、価格、サポート
- involuntary churn: 請求再試行、カード更新導線、通知、決済運用
解約率を見るときに一緒に見たい数字
解約率は単独で見るより、周辺指標と合わせたほうが意味がはっきりします。
1. リテンション
表裏の関係です。
解約率が上がるなら、どのコホートでリテンションが落ちているかも見たほうがよいです。
2. LTV
LTV は継続期間の影響を強く受けるので、解約率が悪いと伸びにくくなります。
新規獲得がうまく見えても、LTV が弱ければ広告や営業を増やしにくいです。
3. オンボーディング完了率
導入初期で止まっているなら、解約は後で起きても原因は最初にあります。
初期設定、初回成功体験、主要機能利用までの到達率を見ると改善点が見えやすいです。
4. 利用頻度や主要機能の利用
ログイン回数だけでは足りません。
継続顧客が本当に価値のある機能を使っているかを見る必要があります。
5. 解約理由
定量だけでは原因が分かりません。
高い 難しい 使われなかった 担当者が変わった 代替できた など、理由の分類が必要です。
SaaSでよくある見誤り
1. 全体平均だけを見る
全体で見て問題なさそうでも、特定プランや特定流入だけ悪いことがあります。
少なくとも次の切り口は見たいです。
- プラン別
- 流入元別
- 契約規模別
- 登録月別コホート
- 導入初期行動別
2. 新規獲得で隠してしまう
広告や営業で新規が増えていると、解約の悪化が見えにくくなります。
純増だけでなく、何社入って何社離れたか を別々に見るべきです。
3. 顧客数だけ見て売上を見ない
特に BtoB では危険です。
社数は安定していても、売上チャーンが悪化しているなら、重要顧客から弱くなっている可能性があります。
4. 解約月だけ見て原因月を見ない
解約という結果は、だいたい前から仕込まれています。
実際には、初月のつまずき、活用停止、問い合わせ増加、請求失敗などが先に起きています。
どう改善を考えるか
解約率を下げたいとき、すぐに 解約防止キャンペーン へ飛ぶより、まず離脱理由を分けることが大事です。
価値が届いていない場合
- 初回設定を短くする
- 価値が出るまでの導線を短くする
- 主要機能へ早く到達させる
- 活用例やテンプレートを増やす
価格や契約が合っていない場合
- プラン設計を見直す
- 小さく始められる導線を作る
- 使わない機能まで抱えさせない
請求起因の場合
- 決済失敗の再試行
- 支払い失敗通知
- カード更新導線
- 請求サポート
カスタマーサクセス起因の場合
- 利用低下の早期検知
- 活用提案
- 更新前の状況確認
- 解約リスクのサイン管理
最初に押さえるべきか
最初は次の5つで十分です。
- 解約率 は、顧客や売上がどれだけ離れたかを見る数字
- ロゴチャーンと売上チャーンは分けて見る
- 月次だけでなく、契約更新の単位でも実態を見る
- voluntary churn と involuntary churn は原因も打ち手も違う
- リテンション、LTV、オンボーディング、解約理由と一緒に見る
まとめ
解約率 は、SaaS で顧客が離れていないか、売上が削れていないかを見る基本指標です。
新規獲得が伸びていても、解約率が悪いと積み上がりは弱くなります。
特に大事なのは、何社離れたか を見るロゴチャーンと、どれだけ売上が減ったか を見る売上チャーンを分けることです。
さらに、顧客が自分で去る voluntary churn と、支払い失敗で落ちる involuntary churn も分けて見ると、改善の打ち手がはっきりします。
SaaS の数字を見るときは、成長だけでなく継続も一緒に見る。
その感覚を持つだけでも、解約率の見え方はかなり変わります。
この記事と一緒に読みたい
- リテンションとは?サービスが使われ続けているかを見る基本
- LTVとは?顧客1人あたりの価値をどう見る指標なのか
- オンボーディングとは?初回利用で迷わせない設計の考え方
- カスタマーサクセスとは?導入後に顧客が成果を出すための仕事
- PMF(Product Market Fit)とは?顧客に求められている状態を見極める基本
参考リンク
- Stripe Docs: Subscription analytics
- Stripe: What is an average churn rate?
- Paddle: SaaS churn rate
- Maxio: Logo Churn